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会社が永く生き残るために

09.10.31
SAVS会員 八木経営システム研究所代表 八木 芳昭

 最近、私は元気な企業とか、長く生き続けている企業の特徴とかに興味があり、そのような目で企業を見たり、そのような企業の事例を調査していますが、これに関係して、少し述べさせて頂きます。
日本の老舗企業に広く共有されている倫理観として、近江商人の「三方よし」があります。「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。前のふたつは、売り手にとっても、買い手にとってもよい、という意味で、いわゆるWin-Winの関係です。最後のひとつは、世間(社会)においても喜ばれる、ということです。

 この中で最も強調されているのは、「世間よし」です。「世間よし」によって社会的な責任の必要性を表しています。これは、近年の「会社は株主のもの」という市場経済至上主義」に対するアンチテーゼとも言えます。儲けるだけでなく社会性・公共性も考慮する必要があるということです。
老舗企業の歴史を見ると、「儲かる」か「世の中の役に立つ」かの2者選択を迫られた時、かならず「世の中の役に立つ」を選んで来た会社や商店が、結局は生き残って「老舗」と呼ばれるようになっているようです。

 もっぱら天秤棒を担いでいた小商人の段階にあった近江商人が、どのような心構えでいたのか、ということを追憶談として語ったものに、丁吟の初代・小林吟右衛門の次のような述懐があります。

 「たとえ天秤棒を担いだ小商人といえども、自分のことばかりでなく、世の中の一員としての自覚を持って、不義理や迷惑をかけないように絶えず周囲や世間の人々のことを思いやりながら、労苦を厭わず懸命に働けば、立派に商人として認められ、やがて相当の身代を築くことができるものである・・・・始めから欲にかられて大金を願望しても、無駄であり何の益にもならない」
 成功後の述懐といえ、これは近江商人が小商人の段階からすでに社会の一員としての自覚を持って活動する重要性をわきまえていたことを伝えています。

 また、近江商人・中村治兵衛宗岸は、自分を継いだ養子の宗次郎へ次の様な書き置きをしたためています。
 「他国へ麻布などの行商へ出かける時は、気分よく商品を購入し、活用してもらうために、まずその土地の人々のことを大切に考えること、自分のことばかり計算して高利を望むようなことをしてはならない。・・・・行商のために他国へ入国する際には、たえず相手のことを思いやる志を持つことが第一である」  この二つの述懐や書き置きは、近江商人の商行為の精髄にある「三方よし」の理念の原点となったものです。

 「エノキアン協会」という同族経営でありながら、長い歴史の風雪に耐え、今日まで堅実な経営を維持している世界的な組織があります。加盟企業は全世界で僅か39社の優れた会社だけであり、日本から参加を認められているのは「月桂冠」や「法師(旅館業)」を含む4社です。 エノキアン協会に加盟している企業に共通しているのは、次の5点です。
 (1)危機に対して柔軟で創造的な適応をなしうる。
 (2)オリジナルな品質への限りないこだわり。
 (3)後継者の育成への注力。
 (4)過度な成長、過度なパワーを望まない。
 (5)社会に受け入れられる企業文化を確立し、その文化を経営者のみならず、全社員にも連綿として継承している。
ここでも(5)に記載のように社会性、公共性が強調されています。

 以上、「近江商人」と「エノキアン協会」を例に出して、永続する企業の特徴的なことを述べて来ましたが、まとめますと、永続する企業の条件は、自分の会社のことだけを考えるのではなく、お客様や社会のことも考え、また、時代に即した改善を継続して行っていくことだと思われます。
 これは、簡単のことで当たり前のことのように思えますが、実践することは非常にむつかしく、新規に創業された方、また現在事業をされている方にとっても、心して意識していくに値することだと思われます。


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