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随想の広場

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オペラ制作における顧客志向がもたらすもの

09.12.20
SAVS会員 マネジメントハウスジェービー代表 石井 辰雄

 「何度言ったら分かるんだ!」と演出家の厳しい声が轟きます。「それでは観客の目に入らないでしょ。君は右手が利き手だから無意識にそう動かすのかもしれないけれど、それじゃあ渡すもの(この場では"鍵")が隠れてしまう。左手で渡さなきゃな」
 先般の関西二期会オペラ公演「ベートーベンのフィデリオ」に出演する機会があり、立ち稽古の初日に経験した光景です。他にも「右へ動き出す時には右足から一歩を、左へ動き出す時には左足から一歩を踏み出すのが鉄則、そうすれば観客に相対しながら移動できるのだ」「悲しいからと言って下を向いたら観客は君の表情が見えないじゃないか、さあ胸を張って悲しむのだ」等の怒鳴り声の指摘の度に、メインキャストたちは泣くことをこらえて何度も何度も稽古を繰り返します。本格オペラ出演が初めての私には、ショックを受けながらも、演出する者と演ずる者との神々しい格闘を見る思いがしました。

 S席1万6000円のチケット、フィナーレ直後の観客のブラボーとカーテンコール、そして二日間の公演終了後の打ち上げ会での達成感、全てはオペラ制作における"顧客志向の極み"がもたらしてくれている、としみじみ感じ入りました。


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