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随想の広場

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『各位殿』

10.05.06
SAVS会員 上住技術・経営企画代表 上住 好章

 ある個人経営の企業さんの支援をした時のことです。この経営者はオンリーワン商品も持っている研究熱心な中々のアイデアマンです。今度も新製品が出来たとのことで、顧客に案内状を出そうとしています。その案内状を見て欲しいとのことで拝見しました。申し遅れましたが、筆者こと上住の専門の一つが技術文書の作成支援で、説明書などの添削等も数多く手がけています。

 さて、その案内状の冒頭に書かれていたのがこの随想文のタイトル、『各位殿』でした。ご存知のように、『各位』だけで敬意を含みますので、『各位殿』と書くのは敬意が重複し、好ましくないとされています。この案内状を受け取った人の中にも気になる向きがいるかも知れません。せっかくの案内状の値打ちが減ってしまいます。それなら、案内状の冒頭には『各位』と書けば良いようなものですが、ややぶっきらぼうな印象があるのは否めません。この経営者もそう感じたのでしょう。

 『各位』は中国渡来の用語ですが、本場ではどんな使い方をしているのでしょうか?
 上海行きの機内アナウンスなどを聞いていると、後のほうは色々と変わりますが、最初はいつも『クーイーカー』と聞こえます。漢字で書くと『各位客』となります。『ご案内申し上げます』などとベタベタした敬語を使わずに簡潔に言える中国語が少々うらやましくなりますが、やはり『各位』だけでなく『客』も言っています。日本語では『顧客各位』と言った感じでしょうか。しかし、案内状の冒頭に『顧客各位』と言う用語があると、かなり硬い感じがします。

 代わりに、『取引先各位』とすると、出入り業者に対するような、やや尊大な感じがします。『得意先各位』とすると未だ売上のないところに対しては違和感があります。そこで、最終的には『お客様各位』にしました。実は、『お客様各位』も『お客様』と『各位』の双方によって敬意が重複するという議論はあるのですが、『各位殿』に比較すると違和感が少なく、実務上は広く使われています。『お客様』は『取引先』と同じように一語を構成しているという感触があるからでしょう。
検索サイトでの出現頻度を見ても、『顧客各位』の約3,100件に対して『お客様各位』は約182,000件もあるのです。

 最初に『各位殿』と書かれた案内状を見たときに顧客に持たれるかもしれない違和感を防ぎ、案内状の本来の機能を発揮させるために、冒頭に置く用語は重要なのです。『各位殿』はこのようにして添削が完了したのでした。


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