研究会メンバーによる随想をお楽しみください。
遅ればせながら、シルク・ド・ソレイユの“O(オー)”を初めて鑑賞する機会があった。立派な劇場での華麗な水(と炎)のショー、アクロバチックな演技、高所恐怖症も見惚れる空飛ぶ幽霊船上での空中ブランコ、水上の舞台での華やかなシンクロナイズド・スイミング……確かにこれは……自分が知っていた“サーカス”とはまるで違う。 シルク・ド・ソレイユは『ブルー・オーシャン戦略』で、バリュー(価値)イノベーションのトップ事例として掲載され、ネット上にも数多くの動画(*1)が紹介されているが、実際に自分の眼で見ると、同書が言う 「シルクは、市場の境界を引き直し、大人や法人というまったく新しい顧客層を惹きつけた。これらの顧客は、従来の何倍にものぼる価格を支払って(*2)、かってない新しい娯楽経験を得ようとした。」 「シルクは競争者のいない新しい市場を創造した」 という主張に、素直に肯かざるを得ない。 劇場の舞台と巨大なプール(水)の一体化、空中ブランコと水中シンクロナイズド・スイミングの融合、従来のサーカスのアクロバチックやコミック的要素は演劇風に昇華されている、動物はまったく登場しない――水中のせりあがり舞台は歌舞伎からの転用か? 1500人以上を収容しそうな大シアターはほぼ満席。フォーマルウエアのカップルの姿も多く、昔ながらのサーカス・テントで見かけた親子連れはほとんど見かけない。 ビジネス規模はどのくらいか? 1500人×150ドル×2回/日×250日/年で、年間の売上100億円以上となる。 まさしくイノベーションによるビッグビジネスの創出である。 さてこのような革新的ビジネスは一体どのようにして生まれるのか? その詳しい分析は『ブルー・オーシャン戦略』にゆずるとして、同書はその前提として、顧客提供価値の革新=バリュー・イノベーションを不可欠の条件としている。何世紀にもわたって続いてきたサーカス・ビジネスの顧客価値に対して、シルク・ド・ソレイユ(太陽のサーカスの意味)の提供価値は、“明らかに違いがあって全く新しく、しかも観客を驚嘆させる”。 このような“バリュー・イノベーション”の背景には、コンセプト革新者の強い自己主張と怯むことのない精神的エネルギーが感じられるが、我われが日頃お手伝いする顧客、中堅・中小企業の事業コンセプトの高付加価値化にも同様のバリュー・イノベーションが求められていることは言うまでもない。このコンセプト革新のための顧客サポートこそが、まさしく我われ診断士の最重要課題と、気を新たにした次第である。 (*1)https://www.youtube.com/watch?v=fS0pW2ty75s (*2)100ドル~200ドル/席 |