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年金について考える

16.07.31
SAVS会員 関 康徳
 保険料を納めても、将来年金が受け取れるか疑問視する人、年金保険料を納めたくてもそれなりの収入がない人など、国民年金保険料を納めていない人の割合は40%近くにもなっている。これでは、国民皆年金は本当に崩壊してしまうだろう。そうならないために、年金制度の問題点を明らかにし、その解決策について私の考えを述べてみたい。
 日本の年金制度は、国民年金と、厚生年金保険をはじめとする共済年金等の被用者年金保険(以下厚生年金等という)とで成り立っている。国民年金は年金制度を構成する1階部分、厚生年金等は2階部分と言われる。これは、厚生年金等に加入するには、その適用事業所に使用されないと加入できないが、国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者は、原則として国民年金の被保険者になり、保険料の納付義務を負わなければならないと法律に規定されていることに由来する。しかし、その被保険者は第1号被保険者(第2号及び第3号被保険者のいずれにも該当しない者)、第2号被保険者(厚生年金保険法の被保険者、組合員または加入者)及び第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者)の3種類に分類されている。ここでの問題の一つは、第2号及び第3号被保険者は、国民年金の保険料を納付する必要はないことである。これらの被保険者の国民年金保険料は、厚生年金保険等からその被保険者と被扶養配偶者の保険料相当額を拠出することになっているからである。しかし、第1号被保険者は、専業主婦も含めて、収入のない者も保険料の納付義務を負っていることである。法定免除に該当するものは届け出することにより全額免除に、学生及び納付困難なものは申請が認められれば保険料が免除される。但し、保険料が免除された月分は年金もそれなりに減額される。ただ、10年以内であれば、保険料を追納することにより、納付済期間とされる。保険料は一律月額16,660円(平成28年度、平成29年度は月額16,900円)に保険料改定率(物価変動により算出される率)を乗じて算出される金額を納付する。40年間(480月)保険料を納付したものは、65歳に達した月から、年額780,100円(平成28年度月額換算65,000円)の老齢基礎年金が支給される。但し、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が25年(消費税率が10%に改定された以後は、10年になる)に満たないときは、年金は支給されない。換言すれば、15年以上の保険料未納期間があると、それまでに納付した保険料は掛け捨てになる。そして、満額の年金が支給されたとして、夫婦二人で月額13万円、この金額で生活できるだろうか。これが第1の問題である。
  第2の問題は、第2号被保険者が解雇や退職などにより失職した時に、当然第2号被保険者から第1号被保険者になり、国民年金保険料を自分で納めなければならなくなる。この第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者も同じであるが、第2号被保険者ともども届け出を怠ると保険料の納付もされないことになる。まだ失職なら、本人はわかっているが、転職の場合、本人は新しい勤務先の厚生年金保険等の被保険者になり、自動的に国民年金の第2号被保険者になるが、その被扶養配偶者は、転職先の企業で第3号被保険者の届け出をしないと、第1号被保険者になってしまい、保険料の納付義務が生じてしまう。この届け出を怠り、国民年金の保険料を納付しなかったらどうなるか、保険料の未納期間が生じ、その間については年金が減額されるか、未納期間が15年以上になれば年金そのものが支給されない。保険料の追納はできるが、免除期間の保険料は10年間溯って追納できるが、そうでない年金は2年間しか溯って追納できない。リストラで解雇された会社員は、収入がなくて生活が苦しいときは保険料の免除申請を行い、納付できるようになれば追納するのが、少しでも年金額を増やすことになる。
  次に、厚生年金保険についてだが、法人事業所と従業員が常時5人以上の事業所は、適用事業とされ、厚生年金保険に加入しなければならないが、加入手続きをしていない中小・零細事業所は数多くある。当然このような事業所に使用される人は厚生年金保険に加入していないので、国民年金の第1号被保険者として、国民年金保険料を納付せねばならず、逆に厚生年金保険には加入していないので、将来の厚生年金は支給されない。また、事業所が厚生年金保険に加入していても、1週間の勤務時間が常時使用している人の通常勤務時間より短い従業員は、厚生年金保険に加入させなくても良いとされたことから、パートタイマーや契約社員として勤務時間を短くして厚生年金保険に加入させないという事業所も未適用事業所以上にある。パートタイマーで働く人の中には、第2号被保険者の被扶養配偶者である方が、夫の会社の配偶者手当の支給や所得税の配偶者控除の他、健康保険の被扶養者、国民年金の第3号被保険者であることの利点だけを考えて、厚生年金保険への加入を望まない人が大多数を占める。厚生年金保険の保険料は、事業所と従業員が保険料を折半して納めるが、このような事業所では、保険料の会社負担がまぬがれるため、事業所にとっても経費節減になり、好ましいということだろうか。このほかに、企業の業績が振るわないために、従業員から保険料を天引きしながら、国に保険料を納めていない企業も結構多い。強制徴収も認められているが、ほとんどは見逃されている。強制徴収をすれば、企業の存続そのものが成り立たないことにあるようだが、将来厚生年金が貰えると思っている従業員にとっては大問題である。
 もう一つの問題は、夫婦ともに厚生年金等の被保険者期間があり、二人とも相応の老齢厚生年金を受給している夫婦の夫(妻でもよい)が死亡した時、夫の遺族厚生年金は、そのままでは妻は受け取ることができない。同一人が同じ年金制度から二つの年金(老齢厚生年金と遺族厚生年金)を受給できない仕組みになっているため、夫の遺族厚生年金を受給するには、妻の老齢厚生年金を放棄しなければならない。このような場合、残された妻は、夫の遺族年金か自分の老齢年金のどちらか多い方を選択するしかない。しかし、専業主婦で、自分の老齢厚生年金が僅かの場合、夫の遺族年金を選択するしかなく、自分の老齢年金を放棄してもそれほど損をした気にはならないであろう。そして、第3号被保険者として国民年金の保険料を納めなくても、老齢基礎年金は受給できるのだから、むしろ得をしている気分だろう。それが、パートタイマー等の人が厚生年金保険に入りたくない理由の一つになっている。

 年金の問題は、このほかにもあるが、このように、現在の年金制度は不公平に満ちている。以上の問題だけでも根本的に解決する方策はない。私なりに考えた方策をいかに述べて、皆様方のご意見を伺いたい。
 先ず、第1の問題点である国民年金の被保険者の種類と第2号、第3号被保険者は保険料を納付しなくてよいということについて、国民年金の目的(老齢、障害または死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与する=国民年金法第1条)から考えて、種類を廃止し、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者はすべて国民年金の被保険者とする。そして、全ての被保険者は保険料の納付義務を負うものとします。国民保険料は、全額税金で賄うとする考え方もあるが、これには反対である。ただ、保険料が高くて払えない人もいることは事実なので、保険料を下げる意味で、現在の国の負担5割を9割に引き上げる。1割の保険料負担を残すことで、将来受給権を満たしたときに年金を受け取る権利をしっかりと持つことが重要と考えるからである。
 2号被保険者、3号被保険者がなくなることにより、厚生年金等から国民年金に、これらの保険料を拠出する必要がなくなる。従って、厚生年金保険料(率)も引き下げることが可能になる。保険料率を引き下げることにより、企業の保険料負担が軽くなるので、未適用事業所を適用事業所とし、保険料未納事業主に対する徴収を強化するなどに力を入れる。これにより働く人の将来生活を守ることができるので、不安感を和らげることができる。さらに、厚生年金等の保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じて保険料を算出しているが、この保険料には上限がある。すなわち、月収が605選以上は、標準報酬月額が620千円に固定されるので、日産自動車のゴーン社長のように年間役員報酬が9億円を超えていても、厚生年金保険料は月額110,534円(平成28年8月まで)で済む。この保険料の上限をなくし、保険料は実際に支払われた報酬に保険料率を乗じて算出、事業所と折半するようにする。代わりに支給する年金額には上限を設定すると、さらに保険料率を下げることが可能になる。厚生年金等の持続に寄与すると考えるが如何であろうか?



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