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ベルギーIoT推進団体とのディスカッション

20.3.24
SAVS会員  上住技術・経営企画代表 上住好章

2019 年の5月中旬から1 ヶ月間パリに滞在しました。その目的は洋画家である家内が開いた5 回目の油彩画のパリ個展に同行し、作品を運搬することでした。

その際、紹介を受けてベルギーのIoT 推進団体の有力メンバとディスカッションを行いました。紹介をお願いしたのはプロセスプラントを中心にしてグローバルに技術情報を提供しているARC アドバイザリーグループの副社長で日本地区代表の安部周二様です。
紹介いただきまし方は、ARC ベルギーの代表で、かつ同国のIoT 推進団体である3IF(Industrial Internet In Flanders の略、IIIF = 3IF)の有力メンバでもあるValentijn de Leeuw 博士(以下『Valentijn』と略記)です。わざわざパリに来ていただき、個展を開いているギャラリーでのディスカッションとなりました。SAVS支援センター内での報告が遅れ、ディスカッションから半年以上が経ちましたが、日本ではほとんど知られていないベルギーのIoT事情の一端について、その概要を報告します。なお、本稿の写真とイメージとはValentijnの了解を得て掲示しています

ディスカッション当日はValentijn の提案によって個展のギャラリーの近く、パリ南東部のターミナルであるリヨン駅(Gare de Lyon)前のビストロで待ち合わせて一緒に昼食を取ろうということになり、家内とともに待っていました。上住は初対面なのでネクタイを着けて行きましたが、Valentijn はカジュアルなジャケットにiMac ノートPC が入ったナップサックを背負った姿で現れました。このあたりのヨーロッパ人の感覚は実のところよくわかりません。
わざわざブリュッセルからパリへ来てもらったご足労を謝するとともに、Valentijn が興味を持っているという『仁神術』(加藤春樹著)の書物を日本からのお土産として手渡しました。昼食後に歩いてギャラリーに出向き、Valentijn も個展を1 時間ほど参観したのち、2 時間ほどディスカッションを行いました。写真はギャラリーで撮影したもので、背景の絵は家内の作品です。

現在、IoT は各種のビジネスの話題となり、過熱気味です。しかし、中小企業(SME)に限れば『どこから手を付けたらよいのかわからない』という状況が一般的であり、各種の応用をしている中小企業はかなり『とがった』部類に入ります。ユニークな例の一つとして、スマートホン(スマホ)を振動センサとして利用して加工機械の往復運動の回数をカウントし、このデータを使って加工の工程の進捗を管理している武州工業様の例があります。確かにこれは有用なアイデアですが、このようなユニークなアイデアが中小企業から続々と出現するかと言えば疑問がある、要するにシステマティックなアプローチが出来ていないのではないか? 最終的には散発的に出現しているアイデアは枯渇するのではないか? 上住はこれを懸念していたもので、Valentijn とディスカッションをしたい内容でした。
ディスカッションでは、最初に上住から日本の中小企業におけるIoT とAI(人工知能)の現状について説明し、ディスカッションしたい内容としてこの危惧を説明しました。

次にValentijnからIoT 推進団体である3IFの概要についての説明を受けました。なお、3IFのウェブサイトは現状オランダ語版のみです。
右の図の中に3IF の参加企業と製品群が示されています。 3IF は2014 年の設立で、メンバは3IF が公募して選定したスタートアップ企業とプラットフォーム(=IT の動作環境)企業(IBM、SIEMENS)から構成されています。3IF は国(ベルギー)、地方政府(Flanders)、EU の補助金を受けていますが、スタートアップ企業の選定は3IF に委任されて います。
従って 3IF はスタートアップ企業を選定するためのノウハウを持つメンバを揃えています。例えばValentijn は経営コンサルタントでもあるため、設備投資の収益見積と現価計算を行って投資資金の回収年限を計算することも担当していました。
上住の感想としては、スタートアップ企業のみでなくプラットフォーム企業もメンバに入っているのは3IF の強みと考えます。中小企業向けの使い勝手の良い小規模なプラットフォームがあり、これを利用した中小制御盤メーカの製品プレゼンテーションを見せてもらいました。ベルギー国内のメーカですがプレゼンテーションは英語です。自国語に固執していては生き残れないとValentijn は言います。これらの国、即ち小国の人々が英語等の外国語に堪能な理由でしょう。

上住の懸念、すなわち中小企業ではIoT に対してシステマティックにアプローチ出来ないのがネックとなるのではないか、ということに関して議論しました。インダストリー4.0 の本家のドイツでも 、中小企業からは『自分たちは取り残される』との不満があることを踏まえてのことです。
Valentijn もこの不満は知っていましたが、『自分たちの方法、即ちメンバに対する意識付けと各種の講習とを続けていけばそのような問題は極小化出来る、ただし類似ケースに対するソリューション開発のためには政府のサポートは必須である』、との意見でした。確かに、この方法はシステマティックなアプローチになると考えます。

渡欧の機会を利用してベルギーのIoT 推進団体である3IF の現状についてヒアリングし、またディスカッションを行ったことをレポートしました。今後ともグローバルな視点を持って情報収集やヒアリングを行い、中小企業へのIoT 導入の支援の参考としたいと考えます。また、日本の有力なIoT推進団体Industrial Valuechain Initiative(IVI)様が提唱する『10万円IoTキット』に Valentijnが興味を持ったとのことで、帰国後にIVI様の事務局を訪ねてこの意向をお伝えしました。


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